はじめに
無店舗型性風俗特殊営業(いわゆるデリヘル)は、風営法に定められた届出制度に基づき営業が認められる業態です。
届出を提出し営業を開始した後も、事業者は風営法をはじめとする各種法令に基づく厳格な管理義務を負っています。
中でも特に重要で、立入検査でも頻繁に確認されるのが「従業員名簿の作成・管理義務」です。
従業員名簿は、採用後速やかに作成し、必要事項を正確に記載したうえで、適切に保管・保存しなければなりません。不備があると罰則や営業停止処分の対象となるリスクも高く、経営の継続に重大な影響を及ぼします。
無店舗型性風俗特殊営業とは?デリヘル開業前に知るべき基本知識
無店舗型性風俗特殊営業とは、いわゆるデリバリーヘルスや派遣型ファッションヘルスなど、店舗を持たずに利用者の自宅やホテルへ従業員を派遣してサービスを提供する営業形態です。
これは風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)第2条第6項第3号で定められています。
法律上、「営業所を設けないで行い、他人に接触させ、性的好奇心に応ずる接触をさせる営業」とされており、「従業員管理」「名簿作成」「営業区域の管理」などが厳しくチェックされます。
営業を始めるには、事前に営業所所在地を管轄する警察署(公安委員会)に無店舗型性風俗特殊営業開始届出書を提出し、受理される必要があります。
違法営業は重い処分や摘発の対象となるため、正しい手続きと法令理解が不可欠です。
無店舗型性風俗営業の運営で最重要「従業員名簿の作成義務」
無店舗型性風俗特殊営業(デリヘルなど)を適法に運営していく中で、特に重要なのが「従業員名簿の作成・備付義務」です。
これは風営法第36条に基づく法的義務で、すべての従業員について名簿を作成し、営業所に備え付けておくことが求められます。名簿の作成期限は厳格で、従業員が実際に営業に従事することになった日から3日以内に作成しなければなりません。
従業員名簿に記載すべき項目とは?デリヘル経営者必須のチェックリスト
無店舗型性風俗特殊営業(デリヘル等)の運営では、法令に基づいた正確な従業員名簿の作成が必須です。風営法第36条第1項では、名簿に記載すべき項目が細かく定められています。
①氏名
②生年月日
③住所
④性別
⑤本籍地(都道府県までで可)
⑥雇用年月日
⑦退職年月日(退職した場合)
⑧その他公安委員会規則で定める事項
特に注意が必要なのは、都道府県ごとに公安委員会規則による追加項目がある点です。例えば大阪府では、大阪府公安委員会規則第24条が該当します。名簿は営業所に備え付け、警察による立入検査の際にすぐ提示できる状態で保管することが義務付けられています。不備があれば風営法違反となり、指導や処分の対象となる可能性があるため、従業員ごとに漏れなく正確な記載を行いましょう。
従業員名簿に必要な添付書類とは?本人確認の重要性と必須書類一覧
無店舗型性風俗特殊営業(デリヘル等)では、従業員名簿を作成するだけでなく、本人確認書類の添付が実質必須となります。法令上は名簿作成のみが義務ですが、風営法第32条の年少者等の雇用禁止(18歳未満禁止)を守るためには本人確認が不可欠です。実務では次の書類を準備しましょう。
【必須書類】
①運転免許証・マイナンバーカード・パスポートなど公的身分証の写し
②外国人の場合は在留カードの写し
③住民票の写し(生年月日・本籍確認用)
【推奨書類】
④雇用契約書の写し(雇用開始日確認用)
⑤健康診断書(衛生管理上)
これらは警察の立入検査で確認対象となります。
特に「年齢確認」「在留資格確認」は重点チェック項目です。不備があると風営法違反に問われ、営業停止や罰則のリスクが高まります。日常的に書類を整理・保管しておくことが安全な営業継続の基本です。
従業員名簿の保存期間は何年?デリヘル営業で必須の管理ルール
無店舗型性風俗特殊営業(デリヘル等)で作成した従業員名簿は、作成後も適切に保存し続ける法的義務があります。
風営法施行規則第47条により、従業員が退職・離職して営業に従事しなくなった日から最低3年間の保存が義務付けられています。
例えば、退職日が2025年6月1日であれば、少なくとも2028年5月31日までは名簿を保管しなければなりません。
この保存義務を怠ると、警察の立入検査時に違反を指摘され、行政指導や処分の対象となる可能性があります。名簿保存は在籍中だけでなく、退職後も続く重要な法令順守ポイントです。
実務上は、名簿のほかに本人確認書類の写しや雇用契約書なども同様に保存しておくと、後々の証明資料として有効です。安全に営業を継続するためには、名簿管理と保存期間の遵守が不可欠です。
名簿を作成しないとどうなる?デリヘル営業での罰則リスク
無店舗型性風俗特殊営業(デリヘル等)で従業員名簿を作成しなかった場合、重大な法令違反となり、刑事罰の対象になります。風営法第56条第1項第3号では、名簿作成義務(第36条)に違反すると「6か月以下の懲役または100万円以下の罰金」が科されると定められています。
さらに悪質な場合は、公安委員会から営業停止処分や許可取消処分が下される可能性もあります(風営法第26条)。名簿不備は「単なる記載漏れ」と軽く考えがちですが、年少者(18歳未満)の雇用禁止(第32条違反)、派遣地域外営業、ストーカー行為など他の違法行為とも結び付けられやすく、複数の違反で一気に摘発されるケースも少なくありません。警察の立入検査では名簿確認が最も重視されます。適切な名簿作成・保存は、営業許可を守り、安全に長く営業を続けるための最低限のルールです。
風営法における立入検査とは?検査内容・事前連絡の有無・注意点を解説
無店舗型性風俗特殊営業(デリヘル等)では、風営法第45条に基づき管轄警察署による立入検査(実地検査)が随時実施されます。立入検査は基本的に事前連絡なく突然行われるのが通常です。これは「抜き打ち検査」とも呼ばれ、実際の営業実態を把握するためのものです。
検査時には、営業所内に備え付けている従業員名簿の確認が重点的に行われます。
もし名簿不備や違反が発覚すれば、その場で口頭指導されるだけでなく、後日行政処分(営業停止・取消)や刑事処分につながる可能性もあります。警察官は法律に基づき必要と認めた場合、いつでも営業所へ立入る権限を持っています(風営法第45条第1項)。日頃から名簿・書類の整備を怠らず、即時提示できる体制を整えておくことが安全営業の基本です。
行政書士のサポートの重要性
無店舗型性風俗特殊営業は、営業開始の届出だけでなく、運営中の管理体制構築が極めて重要です。
特に名簿作成や保存義務違反は軽視されがちですが、立入検査で最も頻繁に確認されるポイントでもあります。
行政書士がサポートできる業務例
- 従業員名簿の作成・様式作成
- 添付書類の整備・保管方法指導
- 年少者雇用管理に関する事前チェック
- 立入検査対策のレクチャー
- 警察対応マニュアルの作成
事前に体制を整えておくことで、無用な摘発リスクや処分リスクを大幅に低減できます。
まとめ|無店舗型性風俗特殊営業は名簿管理が営業継続のカギ
無店舗型性風俗特殊営業(デリヘル等)は、風営法に基づく届出だけでなく、営業開始後も徹底した法令遵守が求められます。特に重要なのが従業員名簿の作成・管理です。採用から3日以内の名簿作成、必要な記載事項の正確な記載、本人確認書類や在留カードなどの添付が不可欠です。名簿は離職後も3年間の保存義務があり、不備があれば6か月以下の懲役または100万円以下の罰金、さらには営業停止処分の対象にもなります。