はじめに
「物件も決まったし、内装も仕上げた。いよいよ営業開始だ!」
そう意気込む事業者の前に立ちはだかるのが、風営法の許可審査です。
キャバクラ・ガールズバー・スナック・ラウンジなど、接待や深夜営業を伴うナイトビジネスを始めるには、風俗営業許可の取得が不可欠であり、まさに営業の生死を分ける最大の関門といっても過言ではありません。
ところが、実際の現場では「事前相談ではOKと言われたのに最終的に不許可になった」「警察から明確な不許可理由の説明がなかった」というような予期せぬ不許可事例が多数存在します。
その多くは、わずかな構造不備や、距離制限の見落とし、あるいは人的要件の理解不足といった“準備の甘さ”によるものです。
風営法許可とは?基本の再確認
風営法(正式名称:風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)は、接待、遊興、ダンスなどを伴う営業について、社会的な秩序や善良な風俗の維持を目的として規制する法律です。この法律に該当する営業を行うには、都道府県公安委員会の「風俗営業許可」を取得しなければなりません。
対象となる主な業種は以下の通りです
キャバクラ・ホストクラブ(1号営業)
客に接待(会話・お酌・カラオケなど)を行う業態
接待スナック(1号営業)
小規模ながら、女性スタッフが客に接待をする形態
ダンスクラブ・ディスコ(1号営業)
客にダンスをさせる空間を提供する営業
アミューズメントカジノ(5号営業)
ゲーム性のある機器を設置し、遊技させる営業
これらの営業形態に該当する場合、
「人的要件」「場所的要件」「構造的要件」の3つの基準をすべて満たしていなければ、許可は下りません。
どれか一つでも欠けていれば、形式上の書類が整っていても不許可となります。したがって、事前の調査・準備と専門的な視点からのチェックが非常に重要です。
許可が下りない理由TOP5
風俗営業の許可申請では、必要書類をそろえるだけでなく、現場・物件・申請人のすべてが法的要件を満たしていることが求められます。
ここでは、実務で頻繁に見られる「許可が下りなかった理由」をランキング形式でご紹介します。
第1位:保全対象施設との距離が足りない
最も多い不許可の原因がこれです。
風営法第4条第1項では、営業所から半径100m以内に以下の保全対象施設がある場合、原則として許可は下りません。
- 学校(小・中・高・大学)
- 保育園・幼稚園
- 図書館
- 病院・診療所など
特に都市部では、申請地の周囲に保育施設や教育機関が点在しており、Googleマップなどで一見問題なさそうでも、警察が実地調査で直線距離を測定した結果NGになるケースが頻発します。距離の測り方には明確な運用基準があるため、事前に専門家による現地調査が必須です。
第2位:建物用途地域が風営法に適さない
都市計画法に基づき、日本の市街地は「用途地域」に分類されています。風俗営業が禁止されている用途地域では、そもそも申請を受け付けてもらえません。
- 不可地域の例:第一種・第二種低層住居専用地域、第一種住居地域 など
- 可能性のある地域:商業地域、準工業地域、近隣商業地域 など
大阪市では一見OKな地域でも、「特定用途制限地域」に指定されているとNGになるケースもあります。用途地域と条例のダブルチェックが必要です。
第3位:図面・構造要件の不備
風営法では営業所の構造について細かな基準があり、少しのズレでも許可が下りないことがあります。代表的なチェックポイントは以下の通りです
- 客室の見通しが遮られていないこと
- カーテンやパーテーションでブースを仕切っていないこと
- 客室と従業員控室が明確に区分されていること
- 照度(明るさ)が基準を満たしていること(20ルクス以上など)
設計図上では問題なくても、施工段階で照明やパーテーションが変更された場合などに不適合とされることがあるため、内装完了後の現地確認は極めて重要です。
第4位:人的要件の不備(欠格事由)
申請者本人または実質的経営者が以下のいずれかに該当する場合、風営法に基づき許可は下りません。
- 過去5年以内に風営法違反などで処分歴がある
- 成年被後見人・被保佐人である
- 破産して復権していない
- 暴力団関係者またはその周辺者と認定された場合
また、申請者と実質的経営者が異なる「名義貸し」が疑われるケースでは、即不許可扱いとなることもあります。
第5位:申請書類の不備・虚偽記載
提出する書類に記載ミスや添付漏れがあると、形式的に差し戻されるだけでなく、営業実態と乖離した虚偽記載や誤魔化しがあれば不許可の可能性が一気に高まります。
代表的なリスク例
- 使用承諾を得ていない物件を「使用可」と記載
- 接待行為があるのに「なし」と偽る
- 営業目的を実態と異なる形で申請
警察は書類審査だけでなく、現地調査・聞き取り調査による裏付け確認を行うため、虚偽があれば即アウトです。
警察が特に重視する審査ポイント
風営法の許可審査では、書類が整っていれば通るとは限りません。
行政書士として実務に多数関わってきた経験から、警察が特に重視しているポイントは以下の3点です。これは形式的な要件だけでなく、営業の「信頼性」や「地域との共存性」を確認するための視点でもあります。
1.申請人の信用性(過去のトラブル、経営経験、人柄など)
過去に風営法違反や他の行政処分歴があると、それだけで審査が厳しくなります。また、まったく業界経験のない人物や、言動に不安があると判断される場合も、警察は慎重に対応する傾向があります。
2.営業実態と申請内容の一致(現場と書類の整合性)
図面と現場が一致していない、提出内容と現地調査結果に齟齬がある場合、警察は「虚偽の申請」と見なす可能性があります。特に内装や接待の有無については、細かくチェックされます。
書類が整っていても、「この申請者に許可を出して本当に大丈夫か?」という視点で、警察は総合的なリスク判断を行っています。
そのため、ヒアリングや立会いへの準備も重要な審査対策のひとつとなります。
行政書士の視点から:許可率を高めるためにできること
風営法の許可申請は、単に必要書類を提出すれば良いというものではなく、物件の選定から現地の構造、営業の実態、申請者の信用性までを総合的に整えた“戦略的申請”が求められます。
形式的に要件を満たしていても、ひとつのミスや見落としが致命的となり、不許可や差し戻しにつながることも少なくありません。
行政書士として、許可取得率を高めるためには以下の対応を強く推奨しています
- 開業物件を契約する前に用途地域・距離制限を調査
→ 不適地で契約してしまえば、後戻りできません。 - 内装設計段階から構造基準を意識
→ パーテーションや照明など、施工後に修正するには大きなコストが発生します。 - 書類と実態の整合性を何度も確認
→ 図面と現場のズレ、使用権限の不備などはよくある不許可理由です。 - 面談・立入調査時に備えたシミュレーション
→ 警察の質問や現場確認に対して、事前に対応を準備しておくことが重要です。
「どうせ出せば通る」といった楽観は禁物です。
“通る前提”で準備を積み重ねることが、最短で許可を得る近道なのです。
まとめ:許可が取れるかは「準備力」で決まる
風営法の許可が下りない原因は、重大な違反というよりも、事前の確認不足や準備不足による“見落とし”が大半を占めています。
たとえば、距離制限の確認を怠って保全対象施設が100m以内にあった、用途地域がそもそも不適だった、図面と現場が一致していなかった、申請人の背景が審査に影響した。
これらは、事前に専門的な知識と手順で対応すれば回避可能な要因です。
「ここなら大丈夫だろう」という感覚的な判断ではなく、「この物件、この構造、この書類、この人物で、本当に警察が許可を出すか?」という視点で、最初から“通る申請”を前提に逆算した準備が不可欠です。
そのためには、風営法に精通した行政書士と連携し、物件選びから図面監修、書類作成、警察対応まで一貫して支援を受けることで、不許可リスクを大幅に減らし、スムーズに開業へとつなげることができます。