風営法許可

深夜営業と風営法:バー・スナックが知っておくべき届出と許可の違い

はじめに

バーやスナックなどのナイトビジネスを始める際、多くの方が直面するのが「深夜営業」と「風営法許可」の違いです。

「深夜営業は警察への届出だけでよいのか?」

「風営法の許可が必要となるのはどんなケースか?」

といった疑問を持つ方も少なくありません。

営業形態や接客内容によって必要な手続きは異なり、誤った理解のまま営業を始めると、警察からの指導や営業停止といったリスクを招くおそれがあります。

野口 優夜
野口 優夜
]本記事では、風営法に特化した行政書士の立場から、深夜営業と風営法許可の制度の違いや、届出・許可の必要性、実務上の注意点などについて、初めての方にも分かりやすく解説していきます。開業を検討中の方や既に営業されている方も、ぜひ参考にしてください。

風営法と深夜営業の基礎知識

まずはそれぞれの制度について、基本から整理しておきましょう。

 風営法とは

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律、通称「風営法」は、風俗営業や深夜酒類提供飲食店に対し、営業形態や営業時間、店舗構造、立地などの条件を定めて規制している法律です。
この法律の本来の目的は、「善良な風俗と清浄な風俗環境の保持、青少年の健全な育成」にあります。単に風俗的な業種を取り締まるためではなく、地域社会や青少年に悪影響を与えないよう、ナイトビジネスを適正に運営させるためのルールブックといっても過言ではありません。

バーやスナックといった夜間営業を行う飲食店も、営業形態によっては風営法の対象になるため、正しい理解が必要です。

深夜営業とは

深夜営業とは、飲食店が深夜0時を超えて営業を続けることを指します。

特に、バーやスナックのように“主に酒類を提供する飲食店”が深夜0時以降も営業する場合には、風営法上「深夜酒類提供飲食店営業開始届出」を行わなければなりません。
この届出は営業開始の10日前までに警察署へ提出する必要があり、許可ではなく「届出制」である点が特徴です。

しかし、図面の提出や構造基準の確認など、実質的には許可に近い手続きを要します。

無届で営業を行えば、指導や営業停止の対象になるため注意が必要です。

「深夜酒類提供飲食店営業」

対象となる店舗

深夜酒類提供飲食店とは、午後10時以降に主として酒類を提供し、かつ深夜0時を超えて営業を行う店舗を指します。これは風営法上、届出対象として明確に定義されています。

具体的には以下のような店舗が該当します。

  • バー
  • スナック(接待行為を行わないもの。)
  • ダイニングバー
  • ワインバー

こうした店舗は、料理よりも酒類の提供が中心であり、深夜帯も営業を継続することから、風営法の管理下に置かれることになります。

なお、キャバクラやホストクラブのように異性による「接待行為」を行う店舗は、たとえ営業形態が似ていても風俗営業1号に該当し、深夜営業自体が禁止されますので、誤認しないように注意が必要です。

届出の必要性と流れ

深夜0時以降に営業を行うには、「深夜酒類提供飲食店営業開始届出」を所轄の警察署へ提出する必要があります。この手続きは“許可”ではなく“届出”ですが、実務的にはほぼ同等の準備が求められます。

届出の基本的な流れは以下の通りです:

  1. 店舗の構造を確認(照度、面積、間取り、視認性などの基準を満たしているかチェック)
  2. 図面の作成(求積図、内装図、照明図、客席配置図など)
  3. 営業内容を記載した届出書を作成
  4. 管轄警察署へ営業開始の10日前までに届出を提出

特に図面作成や構造基準の確認は専門的な知識が必要となるため、不備があると受理されないこともあります。営業開始のスケジュールに支障が出ないよう、余裕を持って準備を進めましょう。

「風俗営業許可(1号営業)」

対象となる業種

風俗営業許可(1号営業)とは、風営法に基づいて「接待」を伴う飲食店に対して必要とされる営業許可です。該当するのは、以下のような業態です。

  • キャバクラ
  • クラブ
  • ラウンジ
  • 接待を行うスナック(ボックス席での同席、会話、お酌など)

ここでいう「接待」とは、顧客に対して歓楽的雰囲気を提供することを目的とした行為であり、その定義は警察庁により明確にされており、非常に厳格です。

たとえば、女性従業員が顧客の隣に座って会話をしたり、お酒を注いだりする行為は、たとえ軽微であっても「接待」と見なされる可能性があります。

単なる会話でも、営業目的であれば接待とされるリスクがあるため、自己判断は禁物です。

許可取得のハードル

この風俗営業1号許可は「届出」ではなく「許可制」であり、深夜酒類提供飲食店とは異なり、営業開始には事前の審査と正式な許可が必要です。

そのため、クリアすべき要件は多岐にわたります。

主な要件は以下のとおりです。

  • 構造要件:照度(照明の明るさ)、壁や仕切りの高さ、見通しの確保など
  • 営業時間:原則として午前0時まで(地域によって異なる場合あり)
  • 立地要件:学校や病院、図書館などの保全対象施設から一定距離以上離れていること
  • 必要書類:申請者の住民票、誓約書、身分証明書、法人登記簿謄本(法人の場合)など

さらに、店舗の現地調査や図面審査も行われ、警察署による立入検査が実施されます。

申請から許可が下りるまでには、おおむね55日程度かかるのが一般的です。

営業スケジュールに余裕を持って申請手続きを進めることが非常に重要です。

両者の主な違いまとめ

項目 深夜酒類提供飲食店 風俗営業(1号営業)
接待の有無 なし あり
営業時間の制限 深夜0時以降も営業可 原則0時まで(地域によって異なる)
届出 or 許可 届出 許可
主な業種例 バー・スナック(接待行為なし) キャバクラ・ラウンジ・接待スナック
手続きの難易度 中程度 高い

よくあるトラブル事例と行政書士の役割

 トラブル事例

ナイトビジネスの現場では、風営法や深夜営業に関する誤解や手続きミスが原因で、思わぬトラブルに発展するケースが少なくありません。

実際によく見られる事例には、以下のようなものがあります。

  • 「スナックだと思っていたら、接待に該当し風俗営業許可が必要だった」
  • 「深夜営業の届出を出しておらず、営業中に警察から指導を受けた」
  • 「図面の不備により届出が受理されず、予定日に開業できなかった」
  • 「営業開始の10日前までに届出を提出していなかったため、日程を変更せざるを得なかった」

こうしたトラブルの多くは、制度の誤解、手続きの流れの不備、必要書類や図面の作成ミスなどが原因です。

特に初めて開業する方にとっては、見落としやすいポイントが多数存在します。

行政書士の役割

こうしたリスクを回避するために有効なのが、風営法に精通した行政書士のサポートです。専門の行政書士であれば、以下のような実務支援を通じて、円滑な開業と法令順守をサポートします。

  • 営業形態に応じた最適な手続きの選定:接待の有無や営業時間に応じて、風俗営業許可か深夜酒類提供の届出かを適切に判断。
  • 図面作成・書類整備の代行:専門知識を活かし、警察の基準を満たす正確な図面や添付書類を作成。
  • 警察署との事前相談や協議対応:事前に警察と営業内容や構造要件について協議を行い、申請の受理可能性を高める。
  • スムーズな届出・許可取得の支援:書類の提出代行や、申請スケジュールの管理など、開業までの工程を一括で支援。

風営法関連の手続きは非常に専門性が高いため、プロのサポートを受けることで、安心・確実な営業開始が実現できます。

まとめ

バーやスナックを経営する上で、「深夜酒類提供飲食店営業開始届出」と「風俗営業許可」の違いを正しく理解することは、トラブル回避と安定経営のために非常に重要です。

接待の有無や営業時間、営業形態に応じて、必要な手続きは異なります。誤った申請や届出漏れは、指導や営業停止のリスクにもつながります。

野口 優夜
野口 優夜
当事務所では、風営法に特化した行政書士として、実務に即した的確なサポートを提供しております。開業前のご相談から許可取得、図面作成、さらには物件選定・カラオケ業者のご紹介まで、一貫してサポート可能です。お気軽にご相談ください。