はじめに
風営法に基づく営業形態の中でも、比較的多くの方が開業を検討されるのが「無店舗型性風俗特殊営業」です。
代表的な業種としては、デリバリーヘルス(いわゆるデリヘル)や性感マッサージ、出張型アロマエステなどがあり、いずれも従業員をお客様のもとに派遣してサービスを提供する形態です。
これらは店舗を持たずに営業できるため、賃料や内装費を大幅に抑えられる点で、個人事業主や新規法人に人気があります。また、大きな特徴として「用途地域の制限を受けない」点が挙げられます。これは、営業所では接客やサービスの提供が行われないため、建築基準法上の「風俗施設」には該当せず、住宅地であっても届出が可能とされているからです。
無店舗型性風俗特殊営業とは?
「無店舗型性風俗特殊営業」は、風営法第2条第6項第1号に規定された営業形態で、お客様の求めに応じて従業員をホテルや自宅などへ派遣し、性的サービスを提供するものです。
・デリヘルや出張ホテヘル
・性感マッサージ
・出張アロマエステ(性的サービスを伴うもの)
などが該当します。
この営業形態の特徴は、接客行為が店舗ではなく外部で行われるため、営業所自体はサービス提供の場ではなく、事務所や待機場所として機能する点です。
そのため、風俗店のような構造要件や用途地域の制限が適用されず、比較的自由に物件を選べるというメリットがあります。
営業を始めるには、営業所の所在地を管轄する警察署(生活安全課)へ「無店舗型性風俗特殊営業開始届出書」を提出し、正式に受理される必要があります。
受理後に営業を開始することができ、未届出営業は風営法違反として厳しく罰せられる可能性がありますので、事前準備が重要です。
無店舗型と店舗型の違い
風営法では、性風俗関連特殊営業の営業形態を「店舗型」と「無店舗型」に大きく分けています。両者の主な違いは以下の通りです。
区分 | 特徴 | 用途地域の制限 |
店舗型性風俗営業 | 店舗に客を招き入れてサービスを提供する形態 | あり |
無店舗型性風俗営業 | 従業員を客のもとへ派遣してサービスを提供する形態 | なし |
店舗型の場合、営業所で実際に接客行為が行われるため、都市計画法上「風俗施設」として扱われ、営業できる場所が「商業地域」や「準工業地域」などに限定されます。住宅地や第一種住居地域などでは営業が認められないケースがほとんどです。
一方、無店舗型性風俗特殊営業は営業所では接客が行われず、あくまで待機所や事務所としての機能にとどまります。
結果として、物件選びの自由度が高く、住宅街にあるマンションの一室でも届出が可能となっています。
用途地域の制限を受けない理由
都市計画法では、建築物の用途に応じて「用途地域」が定められており、風俗営業の施設は住居専用地域などでは原則として営業できません。
たとえば、キャバクラやホストクラブといった店舗型性風俗営業は、「商業地域」や「準工業地域」など特定の地域にしか出店できないという制限があります。
しかし、無店舗型性風俗特殊営業の場合、営業所では実際のサービス提供は行われず、単なる「事務所」「待機所」としての機能にとどまるため、建築基準法上も都市計画法上も「風俗施設」には該当しません。
そのため、営業所の所在地が住宅地であっても、用途地域による制限を受けずに届出を行うことが可能です。これは開業希望者にとって非常に大きな利点であり、物件探しのハードルが低くなることから、多くの方が無店舗型を選択する要因のひとつとなっています。
無店舗型性風俗特殊営業の届出手続きの流れ
無店舗型性風俗特殊営業を行うためには、以下のようなステップで届出を行う必要があります。
1.営業所の選定
- 自宅、レンタルオフィス、マンションの一室などが選ばれます。
- 家主や管理会社に「風俗営業に使用しないこと」という誓約を求められるケースがあるため、契約前の確認が重要です。
2.必要書類の収集
主な書類には以下のものがあります。
- 営業の方法を記載した書類(営業概要書)
- 営業所の見取り図、付近見取図、配置図など
- 使用承諾書または賃貸借契約書
- 法人の場合は定款・登記簿謄本
- 代表者および管理者の身分証、住民票、経歴書など
3.管轄警察署への届出
営業所の所在地を管轄する警察署の生活安全課にて届出を行います。届出後、正式な受理番号が発行され、営業が可能になります。
※許可制ではなく「届出制」ですが、書類不備や構造・方法に問題がある場合は受理されないことがあります。
4.営業開始
届出が受理された日以降に営業を開始できます。開業後も、管理者の選任や従業員名簿の備付け、変更届の提出などが求められます。
よくある質問(Q&A)
Q1. 住宅街にあるマンションの一室でも営業所にできますか?
はい、可能です。ただし、マンションの管理規約で「風俗営業に使用してはならない」という記載がある場合や、家主からの使用承諾が得られない場合は注意が必要です。事前に契約条件をよく確認しましょう。
Q2. 営業所で接客やサービスは行えませんか?
はい。その通りです。無店舗型の場合、営業所は「待機場所」や「事務連絡の拠点」としての利用に限定されます。サービス提供は、あくまで客先(ホテルや自宅)で行うことが前提です。
Q3. 自宅兼事務所として届け出は可能ですか?
可能です。ただし、同居家族がいる場合や、建物構造によっては警察からの指摘を受けることもあります。特に待機女性の出入りが多い場合、近隣住民とのトラブルにもつながりかねないため、慎重な判断が必要です。
届出後の注意点
無店舗型性風俗特殊営業は、単に警察への届出を行えば自由に営業できるわけではありません。届出後も、風営法に基づく複数の法的義務を適切に履行する必要があります。
主な義務としては、以下のようなものがあります。
- 常勤の「管理者」を選任し、その氏名を届出に記載すること
- 顔写真付きの「従業員名簿」を備え付け、住民票や身分証の写しも保管すること
- 利用客の身分証を確認し、その記録を一定期間保存する義務
- サービス内容や料金体系を事前に明示し、契約時にトラブルが起きないよう配慮すること
- 苦情やトラブルに対応するための体制を整備すること
さらに、営業方法の変更、電話番号の追加・削除、営業所の移転、廃止などがあった場合には、所轄警察署へ「変更届」または「廃止届」を提出する必要があります。
これを怠った場合、指導や営業停止といった行政処分の対象になる可能性がありますので、届出後も継続的な法令遵守が求められます。
まとめ:用途地域に縛られず、柔軟な営業が可能な「無店舗型」
無店舗型性風俗特殊営業は、都市計画法上の制限を受けず、柔軟な営業が可能な営業形態です。低コストでの開業が可能で、届出手続きも比較的シンプルなため、開業希望者にとって非常に魅力的な選択肢と言えます。
しかし、警察への届出は細かな書類作成や法的知識が求められ、独自で進めるにはハードルが高い部分も多く存在します。特に近年は警察署による事前審査も厳格化しており、少しの不備で受理されないケースも珍しくありません。